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まだ風薫る2005年5月の金曜日。
「そろそろ実が大きくなってきたよー。」
うれしい電話をもらって、高知インターから高速道路で15分。
何と便利な世の中でしょう。10kmの道のりもアッという間についてしまいます。
「はやかったねぇ~!?」
いつものビニールハウスに入りました。
「・・・ついに、きましたねー。」
「きましたねー(笑)。」
「昨年も来ましたけど、全然ちがいますね。」
「今年は、気合いれましたから。」
「気合、はいってましたよねぇ。」
「気合が入れば美味しくなるなら、24時間
気合ばっかり入れますけどね(笑)。」
「気合で旨いものができたら、いまごろアニマル浜口が
日本一の生産者だもんね(笑)。」
「持っているだけのものは全て注ぎました。」
2月にマンゴーの花を見せていただいたときの話ぶりからしても
今年はかなり気合が入っている生産者さん。
「どうあっても、美味しいものを作りたいんですよ、今年は。」
普段クールな生産者さんですが、もうすぐ収穫の時季をむかえて、すごく熱が入っているようです。
その「熱」の入る理由があとからわかるのですが、このときは林立する樹木にぶらさがる見事なマンゴーの果実にすっかり魅せられていたのでした。
「すごい数ですねえ」
「・・・問題は、美味しいものがどのくらいあるか、ですね。数といえば、マンゴーの品種ってどのくらいあるか知ってますか?」
「いえ、知りません。お恥ずかしながら(汗)。」
「いや、僕も正確な数字は知らないんですが(笑)、人づてに聞くところ、インドを中心に軽く100種類以上はあるらしいですね。」
「そんなに!?」
「ウチで作っているのは『アップルマンゴー』と呼ばれているアーウィンという品種です。緑のキーツとか、ペリカンマンゴーとか、日本でお目にかかるだけでも10種類くらいはあるでしょう。」
「意外にメジャーなフルーツなんですね。」
「インドでは『お釈迦さまの食べ物』と呼ばれているそうです。」
「ありがたい食べ物なんですね。」
「そうそう。今年はウチのマンゴーに名前をつけたんですよ。」
「え!?どんな名前ですか?」
「『林檎(アップル)マンゴー』にしたんです。アップルを漢字にしただけなんですけど(笑)。」
「メチャメチャわかりやすいですね(笑)。」
「箱もつくっちゃったから、もう引き返せない(爆笑)。」
「ハウスの室温って30℃くらいなんですね。」
「うん。でも、30℃だからOK、というワケはないです。」
「30℃以上になってもダメ?」
「いえ、湿度と風が重要なんです。湿度はもちろんだけど、風が流れているかどうかが大切。」
「だからこまめに窓を開閉して風を通すようにしているんですか。うーん、いつもながら大変ですねえ。」
「特に風は重要です。元々アップルマンゴーって高木(こうぼく)なんですよ。背が高いから風にはあたっているのが普通なんです。あえて栽培の都合で低く枝を広げているだけだから。」
「これは人為的に枝を広げているんですか?」
「そうです。だから大きくなってくると移植が必要になるでしょうね。それを計算して植えてあるんですが、実際に移植するときはかなり気を遣うことになりそうです。」
「ここから収穫までに気をつけることってあるんですか?」
「ほとんどのフルーツは、ギリギリまで木で完熟させたほうが美味しいわけです。この状態からさらに赤の色具合が変化してきますから、タイミングをみはからって袋がけをして水分を切っていくのがポイントです。」
「・・・大きくなりましたねえ。」
「『実がなる』って、本当に不思議ですよねえ。」
「プロなのに、えらく素人っぽい発言ですね(笑)。」
「いやいや(笑)、トマトだろうが茄子だろうがミカンだろうが、他の人が作っているのを見に行っても、いつも思います。実がなるって本当に不思議ですよ。特にこうして自分が作ったものだと、なおさら。」
いや、ホントに不思議やなぁ、と言いながらマンゴーの実をチェックしていく生産者さん。
結構面倒くさい作業の連続のはずなんですけど、いつもながら、作業をしている姿がなぜか楽しそうです。
あっちこっちと説明をしてくれるうちに、すこしづつ日が傾いていきます。
「それにしても、いつもながら、これを一人でやるのって大変なことですよね。」
「まったく、何ではじめちゃったのかなぁ、と、時々思いますよ。男のロマンといいながら、実は単なるムダづかいなのかもしれません。」
「元々、本当に趣味ではじめたんですか?」
・・・・この質問にこたえが返ってくるのに、めずらしく3分ほどかかりました。
沈黙が続くと、意外なほどビニールハウスの中は静かです。
ちかくの田んぼからカエルの鳴く声がケロケロとひびいてきます。
「・・・最初のきっかけは、ある人との約束だったんです。」
「・・・ある人、ですか。」
「その人がね、『このマンゴー美味しいよ』って、どこかで買ってきたマンゴーを食べたことがあるんです。でもそれは僕が一番最初に食べた”あのマンゴー(※)”に遥かに及ばないマンゴーだったんですよ。」 (※)生産者さんがマンゴーを作るキッカケとなった九州の某地方のマンゴーです。「いごっそう突撃取材」の一番最初参照。
「なるほど。」
「つい言っちゃったんですよね。『これよりずっと美味しいマンゴーがある』って。するとその人が、じゃあ、それを食べさせてよって言うから、勢いで『俺が作るから待ってろ!』って(苦笑)。」
「そこで何で『俺が作ってやる!』になるんですか!?僕なら探してきて買ってきてあげますけど(笑)。」
「誰かが作ったものを買ってきて、というのは作る人間としてのプライドが許さんでしょう、やっぱり(笑)。」
「そのあと九州に行ったんですね。」
「前にも話したように、本当に軽~い気持ちで相談したんですよ。そしたら九州の生産者さんが苗まで手配してくれて、あとはご存知のとおりです。」
「エライ約束をしちゃったもんですね。」
「”今年、史上最強のマンゴーができますように”って『願かけ』もしてくれて・・・。」
「その人もハンパじゃないですね(笑)。」
「そんなこと聞いたら、トコトンやりきらないと男がすたるじゃないですか。世界一美味しいマンゴーを毎日食べさせてやるぞっ!って(笑)。」
「要するに、ここにあるマンゴーって、その一人の女性のためだけに作りはじめたワケですか(汗)。」
「ハハハ。はっきり言っちゃうと、そうです(笑)。」
夕闇から、宵闇へ。あたりはすっかり暗くなってきました。
電燈もあるんですよ、といいながら、生産者さんが裸電球をつけます。
「それから本気モードに突入しちゃったんですね。」
「見ていればわかると思いますが、マンゴー栽培は重労働がないかわりに手間ヒマはすごくかかるんです。そこを、いっしょに見回りをしてくれたり、手伝ってもらってりして。」
「なるほど。道理で・・・。このマンゴーの存在を知っている人自体、市場のなかでも極少数ですし。」
「もとはといえば、その人に食べてもらって『どうだ!これが俺のアップルマンゴーだ!』って言えればそれでよかったんだよね。」
とっぷりと日も暮れて、リィリィと虫が鳴き始めます。
無数に見えるマンゴーの果実に裸電球が濃い陰影をつけるのを二人でながめていると、ハウスのなかだけ時間がとまったかのようです。
「そろそろ収穫ですね。その人も楽しみなんじゃないですか。」
「・・・・きっと、どこかで、食べてくれるでしょう。」
「・・・えっ?」
電燈に集まる虫の群れを見ながら、ぽつりと応える生産者さん。
大きく息をつく表情は、帽子の陰に隠れてよく見えませんが、「きっと、どこかで」という彼の言葉だけで、おおよそのことはワタシにも理解できました。
「・・・・そうですか。」
「・・・今年は、訳があって、ここには来ていません。だけど、『林檎マンゴー』の名前は伝えましたから、きっとどこかで食べてくれるでしょう。」
「そうですね。きっと、いや、絶対に食べてくれますよ。」 (^_^)
☆。:*: ・'゜★。.:*:☆。.*: ・’゜★。.:*:
「実が熟しておちる瞬間ですか!?」
「僕の経験だと、だいたい早朝に落果するんです。マンゴーの袋がけを手入れしたり、吊りなおしたりしているとね、プチっ!て音がしてマンゴーが落ちるんです。」
「ウソでしょ~!?」
「一度早朝に来てください。本当に「プチ!」って音がしますよ。背後で音がして、振り返ったときには葉がザワザワってゆれているだけ。そのザワザワもすぐに小さくなって、また元の静かな世界に戻るんです。すごく不思議な光景ですよ。」
「うーん、それは一遍見てみたいです。さっき、マンゴーはインドあたりが原産だろうって話がありましたね。インドの樹海の中で、誰も見ていないところで同じようにプチって音がしてマンゴーが落果しているんでしょうね。」
「作っている人だけしかわからない楽しみかもしれませんね。」
「作っている人の苦労はともかく、こうして夜のハウスでマンゴーをみていると落ち着きますねえ~。」
「北村(A)くん、疲れてるんじゃないの?普通、こんなトコに、こんなに長くいないよ(笑)。」
「いやいや(苦笑)。何はともあれ、もう、収穫が目の前ですねえ。」
「『林檎(アップル)マンゴー』って名前もつけちゃったから。外見は真紅。切ったら糖度18度以上。まばゆいばかりのマンゴーオレンジをみんなに楽しんでもらいたいです。」
「またまた心にもないことを!本当はたった一人だけに楽しんでもらえればいいんでしょう!?」
「しまった、言うんじゃなかった(苦笑)。ノセられたばっかりに変なことしゃべっちゃったなぁ。いいんです。ともかく誰かが喜んでくれれば、ぼくは、それで。ともかく今年は気合が入っていますから、ギリギリまでがんばりますよ。」
「一番最初にその年のマンゴー食べるときは、本当にドキドキする。」
一年間勉強したテストが返ってきたときの感覚かな、と笑う生産者さん。今回もお忙しい中、本当にありがとうございました。
本番の収穫までに少しづつ切って食べるそうなのですが、その出来、不出来に一喜一憂、本当に「この一年にかけてきた」人にしか体験できない感覚なのでしょう。
今年は6月も第2週になってからようやく気温があがってきたので、一気に水を切って熟していく体勢になりそうです。
果たして「史上最強のマンゴー」はできるのでしょうか?
そして、マンゴーにかける男のロマンは実を結ぶのか?
一年にわたって「いごっそう取材」を読んでいただいたみなさまといっしょに、その行く末を見守りたいと思います。
それでは最後までよんでいただいていありがとうございました!